電話・訪問営業の型とBtoBでクーリングオフが使えない理由|条文から確認する
事業者間の契約では、なぜクーリング・オフが原則使えないのか。特定商取引法第26条の適用除外、消費者契約法の対象範囲、独占禁止法や取適法が問題になる場面を条文で確認し、契約前の30分でやるべきことに落とし込みます。
結論から書きます。会社として、事業のためにホームページを発注した場合、特定商取引法のクーリング・オフは原則として使えません。根拠は同法第26条第1項第1号の適用除外です。「8日以内なら白紙に戻せる」という一般的な理解は、事業者間の契約では前提が違います。
だからこそ、契約後ではなく契約前に決着をつける必要があります。この記事では、まず条文で適用範囲を正確に押さえ、それから「法律で戻れないなら、署名前の30分で何を確認するか」に落とします。
電話・訪問で契約に至る営業の典型的な型
営業手法そのものは違法ではありません。ただし、判断の時間を削る構造が共通して見られます。
- 「無料診断」「補助金のご案内」など、契約勧誘ではない目的で接触が始まる
- 訪問が決まってから初めて、具体的な商品やサービスの説明が始まる
- 決裁権者ではなく、その場にいる人に説明がなされる
- 総額ではなく月額で提示される
- 「今月限り」「今日決めていただければ」と検討期間が圧縮される
- 契約書ではなく申込書に先に署名を求められる
- 署名後、控えの交付が後日になる、または空欄のまま回収される
これらに複数当てはまる場合、契約内容そのものより先に、判断に必要な時間と情報が与えられていたかを記録しておくことに意味があります。後で争点になるのは、たいていこの部分です。
特定商取引法の適用範囲を条文で確認する
特定商取引法は、訪問販売(第2条第1項)と電話勧誘販売(第2条第3項)を定義し、それぞれにクーリング・オフの規定(訪問販売は第9条、電話勧誘販売は第24条)を置いています。書面または電磁的記録により、申込みの撤回または契約の解除ができるという内容です。
問題はその先です。第26条第1項第1号は、売買契約または役務提供契約で「その申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの」等について、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売に関する規定を適用しないと定めています。
事業としてホームページを発注した場合、この適用除外に該当すると評価されるのが通常です。相手方が「御社は事業者なので特定商取引法の適用はありません」と説明するのは、この条文を指しています。
「営業のためにする取引でない」場合の例外
ただし、事業者名義であれば自動的に適用除外になるわけではありません。消費者庁は特定商取引法ガイドのQ&Aで、「お金を稼ぐといった利益活動を行う意思があることのみをもって、『営業のために若しくは営業として締結するもの』に直ちに該当すると解されるものではありません」と説明しています。
つまり判断されるのは、契約の目的と内容が実質的に営業のためのものか、という点です。事業名義で締結していても、購入したものが主として個人・家庭用であるような場合には、適用除外とならない余地があります。自分の事案がどちらに寄るかは個別判断であり、この記事で結論を出すことはできません。
なお、割賦販売法にも同趣旨の適用除外規定があり、個別信用購入あっせんについては第35条の3の60に「営業のために若しくは営業として」という文言が置かれています。制作費が信販会社の分割払いになっている契約では、この点も併せて確認が必要です。契約の構造そのものはホームページのリース契約の構造で詳しく扱っています。
消費者契約法の対象範囲
消費者契約法は第2条第1項で「消費者」を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定義し、第2項で「事業者」を「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」としています。第3項の「消費者契約」は、消費者と事業者との間で締結される契約です。
したがって、会社と制作会社の契約は消費者契約に当たらず、不実告知による取消し(第4条)や、平均的損害を超える違約金条項の無効(第9条第1項第1号)は、原則として直接適用されません。
ただし、これらの規定が使えないことと、何の主張もできないことは別です。民法第95条の錯誤取消し、第96条の詐欺取消し、契約締結過程における説明義務違反に基づく損害賠償は、事業者間でも主張し得る枠組みです。要件は厳格で、証拠が決定的になります。仕分けの手順は「詐欺かもしれない」と思ったときの7つの確認点にまとめました。
独占禁止法と取適法が問題になる場面
| 枠組み | 主に問題になる場面 | 所管・窓口 |
|---|---|---|
| 独占禁止法(優越的地位の濫用) | 取引上の地位が優越する者が、正常な商慣習に照らして不当に、取引に関係のない商品の購入を要請する等の行為 | 公正取引委員会 |
| 中小受託取引適正化法(取適法。2026年1月1日施行、旧・下請法) | 委託取引における代金の未払い・減額、不当なやり直し、買いたたき等。自社が受託側の場合 | 公正取引委員会・中小企業庁/取引かけこみ寺 |
| 民法(錯誤・詐欺・説明義務違反) | 事実と異なる説明で契約に至った場合、重要な条件の説明を欠いた場合 | 弁護士、弁護士会の法律相談 |
公正取引委員会は、優越的地位の濫用について「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を公表しています。同法第2条第9項第5号は、取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に一定の行為を行うことを不公正な取引方法として定めています。
旧・下請法は2026年1月1日に中小受託取引適正化法(取適法)として施行され、名称の変更に加えて規制対象の拡大や禁止行為の追加がなされています。ただしこれは委託取引を規律する法律であり、ホームページを発注する側の立場でそのまま使えるとは限りません。自社の取引が対象になるかどうかは、中小企業庁の相談窓口で確認するのが確実です。
法律で戻れないなら、契約前の30分で何を確認するか
ここが実務の核心です。署名前にこの7項目を潰せば、後の争いの大半は起きません。
- 総額を計算する:月額 × 契約回数。この数字を紙に書き、相手に確認する
- 契約の相手方を確認する:署名する書面の当事者欄は、目の前の会社か、別の金融会社か
- 中途解約条項を音読する:解約できるか、できない場合に何を請求されるか
- ドメイン・サーバーの名義を確認する:自社名義か、制作会社名義か
- 納品物の定義を確認する:何が、いつ、どの形式で引き渡されるか
- 口頭説明を書面化させる:重要な条件はメールで送ってもらい、文面で残す
- その場で署名しない:持ち帰って社内で読む。断られる理由は通常ありません
この7項目に加えて、金額の妥当性そのものは見積書の内訳の読み方と制作会社の比較の仕方で検証できます。相見積もりを取る時間を確保することが、最も確実な防御です。
この記事の要点
- 事業として締結した契約には、特定商取引法第26条第1項第1号により訪問販売・電話勧誘販売の規定が原則として及ばない
- ただし消費者庁は、利益活動の意思のみで直ちに適用除外になるとは解されないとしており、該当性は個別判断である
- 消費者契約法は第2条で消費者を「事業として又は事業のために契約する場合を除く個人」と定義しており、法人間の契約は対象外
- 事業者間でも、民法の錯誤・詐欺・説明義務違反、独占禁止法の優越的地位の濫用、取適法(2026年1月施行の旧・下請法)が関係する場面がある
- 法的に戻れない前提に立ち、総額・当事者・中途解約条項・名義・納品物の5点を署名前に確認する
📎 参照した一次情報
- › 特定商取引に関する法律(e-Gov法令検索)
- › 特定商取引法ガイド「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」(消費者庁)
- › 消費者契約法(e-Gov法令検索)
- › 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(公正取引委員会)
- › 「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会」資料(中小企業庁)
- › 取引かけこみ寺(中小企業庁)
数値は執筆時点の公表値です。制度・相場は変わります。契約前に必ず最新の一次情報をご確認ください。
よくある質問
Q 会社として契約した場合、クーリング・オフは一切使えませんか。 ▾
一切使えないと断定はできません。特定商取引法第26条第1項第1号は、申込者や購入者が「営業のために若しくは営業として締結するもの」を適用除外としており、事業として契約したと評価される場合は原則として及びません。ただし消費者庁は、利益活動を行う意思があることのみで直ちに適用除外に該当するとは解されない、と説明しています。名義が事業者でも購入したものが主として個人・家庭用である場合など、実態に即した判断がなされる余地があります。結論は個別事情によります。
Q 事業者にはどんな法律の保護もないのですか。 ▾
消費者向けの保護規定は及びにくい一方で、事業者間取引には別の枠組みがあります。民法の詐欺取消し(第96条)や錯誤取消し(第95条)、説明義務違反による損害賠償は事業者にも使える主張です。また取引上の力関係に起因する問題については、独占禁止法の優越的地位の濫用や、2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法。旧・下請法)が関係する場面があります。どの枠組みが使えるかは取引の内容次第です。
Q 契約書に署名する前に、その場で断っても大丈夫ですか。 ▾
契約は申込みと承諾の合致で成立するため、署名前であれば断ることに法的な問題はありません。「今日中に決めてほしい」と言われても、持ち帰って検討すると伝えて構いません。その場で判断できない条件を提示された場合、検討期間を求めることは通常の商取引として正当です。持ち帰りを強く拒まれる、その場での署名を執拗に求められるといった状況は、条件を精査されたくない事情がある可能性を示す材料になります。
Q 「下請法」は自分の会社にも関係しますか。 ▾
下請法は2026年1月1日に中小受託取引適正化法(取適法)へと改正・改称され、規制対象の拡大や禁止行為の追加が行われています。自社が発注を受ける側である場合に関係し得る法律で、ホームページを発注する側の立場でそのまま使えるとは限りません。適用の有無は、取引の種類と当事者の資本金・規模などの要件によって決まります。中小企業庁の適正取引支援サイトや取引かけこみ寺で、自社の取引が対象になるかを確認してください。