ホームページ制作の見積書「一式◯◯万円」を分解させる12の質問と基準
「Webサイト制作一式」としか書かれていない見積書を、工程・単価・納品物・権利の所在まで分解させるための質問文を12本用意しました。そのままメールに貼って送れる形式です。答えられない会社を見分ける基準も示します。
「Webサイト制作一式 980,000円」。この1行しか書かれていない見積書を受け取ったとき、発注側にできることは一つだけです。分解を依頼することです。
金額が高いか安いかは、内訳が出るまで誰にも判断できません。この記事では、そのまま本文にコピーして送れる質問文を12本用意しました。あわせて、回答が返ってきたときの読み方と、契約を見送る基準も示します。
なぜ「一式」の見積書では判断できないのか
制作費はほぼ全額が人件費です。工程ごとの作業時間と単価に分解できるはずのものが、分解されていない状態が「一式」です。詳しい構造はホームページ制作の相場と工程別の人日にまとめましたが、要点は次の3つです。
- 一式表記では、どの作業が含まれ、どれが追加費用になるかが確定していない
- 社内で稟議を通す根拠が作れない。承認者が判断できる材料がない
- 公開後にトラブルが起きたとき、契約上「やると約束していた範囲」が特定できない
2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(旧・下請法、通称は取適法)では、委託時に給付の内容や代金などを書面または電磁的方法で明示する義務が定められています。これは受託側を保護する枠組みですが、条件を書面で明示してから着手するのが取引の基本だという考え方は、発注側から求める場合にも同じく通用します。
そのまま送れる12の質問
以下をメール本文に貼り付けてください。冒頭の一文も含めて送ると、意図が伝わりやすくなります。
社内稟議に必要なため、お見積の内訳をご提示いただけますでしょうか。以下の項目について、現時点の想定で構いませんのでご回答ください。
工数と金額に関する質問
- 各工程(ディレクション、要件定義、設計、デザイン、コーディング、CMS構築、原稿作成、撮影、テスト、公開作業)ごとの想定人日数と人日単価をご教示ください。
- ディレクション費は総額の何パーセントにあたりますか。
- 各工程を担当するのは貴社の社員でしょうか、協力会社でしょうか。協力会社の場合、その旨と再委託の範囲をご教示ください。
- 今回のお見積に含まれていない作業のうち、公開までに発生する可能性が高いものを列挙してください。
納品物と権利に関する質問
- 検収時にご納品いただくファイルの一覧をご教示ください(デザイン元データ、HTML/CSS一式、画像の元ファイル、CMSのテーマファイル、各種アカウント情報など)。
- 成果物の著作権は誰に帰属しますか。契約書に「著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む」という記載はありますか。
- 使用する写真・イラスト・フォント・テンプレートのライセンスは、解約後も継続して使用できますか。追加ライセンス料の有無もご教示ください。
- 独自ドメインの登録者名義は当社になりますか。サーバー契約の契約者名義はどちらになりますか。
進行と契約条件に関する質問
- 無償で対応いただける修正の回数と範囲、それを超えた場合の追加単価をご教示ください。
- 検収の合格条件をご教示ください。何をもって「完成」と判断しますか。検収期間は何営業日ですか。
- 保守契約の対象範囲を、実費(サーバー、ドメイン、SSL)と作業枠(更新代行、障害対応など)に分けてご教示ください。月あたりの作業時間の上限はありますか。
- 契約期間、中途解約の条件、解約時の違約金の有無をご教示ください。
回答が返ってきたときの読み方
| 質問 | 妥当な回答の例 | 検討が必要な回答 |
|---|---|---|
| 工程別の人日 | 各工程に日数と単価が入っている | 「弊社基準のため非公開」 |
| 担当者 | 社内/協力会社が明記されている | 質問に触れずに総額だけ再提示 |
| 著作権 | 27条・28条を含めて検収時に移転 | 「弊社帰属だが自由に使える」 |
| ドメイン名義 | 登録者は貴社、管理は当社が代行 | 「弊社名義でまとめて管理」 |
| 修正回数 | 3回まで無償、以降は1回◯万円 | 「常識の範囲で」 |
| 検収条件 | 要件書の全項目を満たした時点 | 記載なし/「公開日をもって検収」 |
右の列に該当する回答が返ってきた場合、その会社が悪質だという意味ではありません。曖昧なまま着手すると、後で解釈が割れる構造ができあがるという意味です。着手前なら文言の修正を依頼できます。着手後は交渉力が下がります。
特に重要な2項目
ドメインとサーバーの名義は、後から最も取り返しがつきにくい項目です。制作会社名義で登録されていると、取引を終えるときに移管交渉が必要になります。JPドメイン名では登録者情報の変更と管理指定事業者の変更という二段階の手続きが必要で、相手の協力なしには進みません。詳しくはドメインの名義確認と取り戻し方にまとめています。
著作権の条文番号も同様です。著作権法第61条第2項は、第27条(翻案権等)と第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が譲渡の目的として特掲されていないとき、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています。つまり「著作権を譲渡する」とだけ書かれた契約では、既存サイトを改変する権利が制作会社に残っていると推定される可能性があります。
この質問に答えられない会社とは契約しない
判断基準は、答えの中身ではなく答え方に置いてください。次の3つのいずれかに該当する場合、契約を見送るか、条件を書面化するまで着手しないことを強くおすすめします。
- 12項目のうち、工程別人日・著作権・ドメイン名義・修正回数・検収条件の5つについて、書面で回答が得られない
- 質問の趣旨に答えず、値引きの提案で話を変えようとする
- 「今月中に契約すれば」という期限を理由に、回答を後回しにする
3つ目は、契約を急がせる典型的な構造です。判断材料が揃っていない状態で期限を切られること自体が警告になります。関連する契約構造は制作契約で注意すべき兆候に整理しました。
なお、回答を得たうえで金額の妥当性を確認したい場合は、ぼったくり見積チェックに工程と金額を入力してみてください。保守費の内訳の読み方は月額保守費は何の対価かで扱っています。
次にやること
- 手元の見積書を開き、「一式」「一括」「その他」と書かれた行に印をつける
- 上の12項目をメールに貼り、回答期限(1週間程度)を添えて送る
- 回答を上の表と照らし合わせ、右列に該当する項目を洗い出す
- 該当した項目について、契約書の文言修正を依頼する
- 修正後の契約書で、著作権・名義・検収・解約の4点を再確認してから押印する
この記事の要点
- 「一式」の見積書では金額の妥当性も契約範囲も判断できない。まず分解を依頼する
- 質問は工数、納品物と権利、進行と契約条件の3系統・12項目に分けて送る
- 著作権は「第27条及び第28条を含む」の記載の有無が分かれ目。条文番号を確認する
- ドメインとサーバーの名義は着手前に決める。後からの変更は相手の協力が必要になる
- 工程別人日・著作権・名義・修正回数・検収条件の5つに書面で答えられない会社とは契約しない
📎 参照した一次情報
- › 公正取引委員会「下請法の改正法が2026年1月1日に施行されます」(リーフレット)
- › 政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!」
- › e-Gov法令検索「著作権法」第61条
- › JPRS「指定事業者制度」
- › LIG「ディレクション費って何?相場や内訳をWeb制作会社が解説」
数値は執筆時点の公表値です。制度・相場は変わります。契約前に必ず最新の一次情報をご確認ください。
よくある質問
Q 見積書の内訳を出してほしいと頼むと、失礼にあたりませんか。 ▾
内訳の提示は発注者として当然の確認で、失礼にはあたりません。むしろ制作会社側も、何を作って何を作らないかを合意しないまま着手するほうが後で困ります。社内稟議のために工程と工数の内訳が必要です、という理由を添えれば、通常の会社なら数日で書式を整えて返してきます。返ってこない場合、その反応自体が判断材料になります。
Q 「一式」表記そのものが違法ではないのですか。 ▾
見積書の書き方を直接規制する法律はなく、一式表記だけで違法とはいえません。ただし2026年1月施行の中小受託取引適正化法では、委託時に給付の内容や代金などを書面か電磁的方法で明示する義務が定められています。これは受託側を保護する法律ですが、条件を書面で明示するのが取引の基本だという考え方は、発注側から求める場合にも同じく通用します。
Q 著作権の帰属は契約書のどこを見ればよいですか。 ▾
「本件成果物の著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)は、検収完了時に甲に移転する」といった条項があるかを見てください。著作権法第61条第2項により、第27条(翻案権等)と第28条(二次的著作物の利用に関する権利)は、譲渡の目的として特掲されていないと譲渡人に留保されたと推定されます。将来サイトを改修する予定があるなら、この二つの条文番号の記載が重要になります。
Q 質問に答えてくれたものの、回答が曖昧でした。どう判断しますか。 ▾
曖昧さの種類で分けてください。「撮影の日数は現地を見てから確定します」は正当な留保です。一方「修正回数は常識の範囲で」「著作権は当社に帰属しますが自由に使えます」は、後で解釈が割れる書き方です。前者は着手前に確定させる期限を決めてもらい、後者は条項の文言そのものを書き換えてもらうよう依頼してください。口頭の説明で納得せず、必ずメールか契約書の形で残してください。