解約で違約金を請求されたときの妥当性チェック|残債との違いと確認手順
ホームページの契約解約で違約金を請求されたら、まず根拠条項を特定します。残債と違約金の違い、消費者契約法9条が事業者間では直接適用されない理由、書面で求めるべきこと、支払う前に確認する項目を整理しました。
「解約されるなら違約金を」と言われたとき、最初にやるべきことは金額の交渉ではありません。その請求が契約書のどの条項に基づくのかを特定することです。条項が特定できなければ、金額が高いか安いかを検討する土台がありません。
そして、支払う前に確認すべきことがあります。支払いは事実上、請求内容を受け入れたという評価につながり得ます。この記事では、根拠条項の特定から、書面で求めるべき事項、支払前の確認項目までを順に示します。
まず根拠条項を特定する
請求書や通知書だけを見ても、何に対する請求かは分かりません。契約書を開いて、次の見出しの条項を探してください。
- 契約期間、自動更新
- 契約の解除、解約
- 中途解約、期間内解約
- 損害賠償、違約金、遅延損害金
- 期限の利益の喪失
- 契約終了後の措置、清算
該当しそうな条項に付箋を貼り、請求書の金額と条項の計算式が対応しているかを確認します。対応しない場合、それは請求の根拠が不明確であることを意味します。この時点で、相手方に条項の特定を求める理由ができます。
利用規約が別にある契約では、重要な条項が規約側に置かれていることがあります。契約書だけでなく、規約と別紙もそろえてください。
残債と違約金は性質が違う
この区別が、交渉の出発点になります。
| 項目 | 残債(残代金) | 違約金 |
|---|---|---|
| 性質 | もともと支払う約束だった代金の未払部分 | 契約違反や中途解約に対して定められた金銭 |
| 典型的な発生場面 | 分割払い・リースで期限の利益を失ったとき | 契約期間内に解約したとき |
| 金額の決まり方 | 契約総額から既払額を差し引いた額 | 契約で定められた計算式(月額の◯か月分、残期間相当額など) |
| 関係する規定 | 契約上の期限の利益喪失条項 | 民法第420条(賠償額の予定)。第3項は違約金を賠償額の予定と推定 |
請求書に「違約金」と書かれていても、実質は残債の一括請求であることがあります。逆に、残債とは別に違約金が上乗せされている場合もあります。同じ損害について二重に請求されていないかは、必ず確認してください。
民法第420条第1項は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額を予定することを認めています。第2項は賠償額の予定が履行の請求や解除権の行使を妨げないこと、第3項は違約金を賠償額の予定と推定することを定めています。
なお、旧民法第420条第1項にあった「裁判所は、その額を増減することができない」という定めは2017年の民法改正で削除され、2020年4月1日から現行法が適用されています。ただし、削除されたことが直ちに減額を認める結論を導くわけではありません。判断は事案によります。
消費者契約法9条は事業者間では直接適用されない
違約金の話でよく引き合いに出されるのが、消費者契約法第9条第1項第1号です。同号は、解除に伴う損害賠償額の予定または違約金を定める条項について、その合算額が同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき「平均的な損害の額」を超えるものは、超える部分を無効とする、という内容です。
ただし、この規定は消費者契約に適用されます。消費者契約法第2条第1項は「消費者」を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定義し、第2項は「事業者」を「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」としています。第3項の「消費者契約」は消費者と事業者との間の契約です。
したがって、会社として、あるいは事業のためにホームページを発注した場合、第9条第1項第1号はそのままでは適用されません。この点は正確に押さえておく必要があります。
一方で、「平均的な損害」という発想そのもの、すなわち相手方に実際どれだけの損害が生じたのかという問いは、事業者間の交渉でも意味を持ちます。制作がほとんど進んでいない段階での解約に、契約期間全額に相当する金額を請求する根拠は何か。この問いを具体的に投げることはできます。
特定商取引法についても同様で、第26条第1項第1号により営業のために締結した契約は適用除外とされています。詳細はBtoBでクーリングオフが使えない理由で条文から整理しています。
交渉時に書面で求めるべきこと
やり取りは必ず記録の残る方法(メール、書面)で行います。求める項目は次の5点です。
- 請求の根拠となる契約書の条項番号(条・項・号まで)
- 請求額の算定根拠(計算式と、その式に代入した数値)
- 残債と違約金の内訳(それぞれいくらか、重複がないか)
- 既に提供済みの役務・納品済みの成果物の内容と、その対価としての評価額
- 支払期限と、支払った場合の契約関係の帰結(清算条項の有無、ドメイン・データの扱い)
この5点を書面で求めるだけで、請求内容が整理されます。相手方が根拠を示せない項目があれば、そこが交渉の余地です。回答を口頭で済ませようとする場合は、「社内で検討するため文面でいただきたい」と伝えれば足ります。
支払ってしまう前に確認すること
支払いは取り返しがつきにくい行為です。振り込む前に、次を確認してください。
- 根拠条項の提示を受け、その条項を自分で読んだか
- 算定根拠の説明を書面で受け取ったか
- 残債と違約金が二重計上されていないか
- 支払と引き換えに何を得るのか(契約終了の確認、ドメイン移管、データ引き渡し)が書面化されているか
- 合意書に清算条項が含まれていないか。含まれる場合、それを受け入れてよいか
- 支払後にサイトが停止しないか、メールが使えなくなる影響はないか
- 支払前に、専門家に意見を聞く時間が取れないか
とくに4つ目と5つ目は重要です。支払っただけで契約が終わるとは限らず、ドメインやデータが戻る保証もありません。何と引き換えの支払いなのかを文面で確定させてください。ドメインとデータの取り戻し方はドメイン・サーバー・サイトデータを取り戻すにまとめています。
相談先としては、事業者間の取引について中小企業庁の取引かけこみ寺が無料で応じています。交渉が成立しない場合に取り得る手段の全体像はリース・長期契約から抜ける現実的なルートで比較しました。訴訟を検討する場合、裁判所に納める申立手数料は民事訴訟費用等に関する法律により訴額に応じて算定され、裁判所が手数料額早見表を公開しています。
この記事の要点
- 金額の交渉より先に、請求の根拠となる契約書の条項を条・項・号まで特定する
- 残債は未払いの代金、違約金は契約違反や中途解約に対する定め。二重に請求されていないかを確認する
- 民法第420条第3項は違約金を賠償額の予定と推定する。旧第1項の「増減することができない」は2017年改正で削除された
- 消費者契約法第9条第1項第1号は消費者契約に適用される規定であり、事業のために締結した契約には直接適用されない
- 支払う前に、根拠条項・算定根拠・清算条項の有無・支払と引き換えに得るものを書面で確定させる
📎 参照した一次情報
数値は執筆時点の公表値です。制度・相場は変わります。契約前に必ず最新の一次情報をご確認ください。
よくある質問
Q 違約金と残債は何が違うのですか。 ▾
残債は、契約期間を通じて支払うことになっていた代金のうち、まだ支払っていない部分です。分割払いやリースで、期限の利益を失ったときに一括請求される性質のものです。一方で違約金は、契約に違反した場合や中途解約した場合に、損害賠償額の予定または制裁として支払う定めです。民法第420条第3項は、違約金は賠償額の予定と推定する、と定めています。請求書に「違約金」と書かれていても、実質が残債の一括請求である場合があるため、算定根拠の確認が必要です。
Q 消費者契約法9条で違約金を減らせませんか。 ▾
会社や事業のために契約した場合は、原則として直接は使えません。消費者契約法は第2条第1項で消費者を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定義しており、法人間の契約は同法の消費者契約に当たらないためです。同法第9条第1項第1号の平均的損害を超える部分の無効という規定も、そのままでは適用されません。ただし民法の一般原則に基づく主張が封じられるわけではなく、どこまで主張できるかは個別事情によります。
Q 違約金の額は裁判所が減らしてくれますか。 ▾
断定はできません。旧民法第420条第1項には「裁判所は、その額を増減することができない」という定めがありましたが、この部分は2017年の民法改正で削除され、2020年4月1日から現行法が適用されています。もっとも、削除されたことが直ちに減額を認めることを意味するわけではなく、減額が認められるかどうかは契約内容や事案の事情によって判断されます。見通しを知るには弁護士への相談が必要です。
Q とりあえず払ってしまったほうが早いのではないですか。 ▾
支払いは事実上、請求内容を受け入れたという評価につながり得る行為です。とくに清算条項(互いに債権債務がないことを確認する条項)を含む合意書に署名して支払った場合、後から争うことは著しく困難になります。急いでいる事情があっても、まず根拠条項の提示と算定根拠の書面化を求め、内容を確認してから判断してください。支払期限を理由に即答を迫られている場合は、期限の延長を書面で求めるのが現実的です。